風 豆柴 平成15年生まれ。
大きな農家で、独り暮らしのお婆ちゃん(84歳)とたった二人で支え合って暮らして来た。
そのお婆ちゃんが病気になった。
突然の余命宣告。
「自分が死んだらこの子をどうして良いか分からない」お婆ちゃんの一番の気がかり。
その時、風は15歳。
子犬の時から一緒に暮らして来た。夫や娘が亡くなった時も、ずっと寄り添いながら。
治らない病気なら、この子の傍で、この家で過ごしたい。お婆ちゃんの願い。
小さな子ではあるが、まだまだ元気。お婆ちゃんが散歩するのは、体力的に難しくなった。餌や水を用意する事もつらくなって来た。
「どれどれ、私がやってやるよ」と隣のご夫婦が名乗りを上げ、風に吠えられながら、世話をしてくれることになった。
「ついでと言っては何ですが…。夜電気がついたかどうかの確認と朝の声掛けをお願い出来ませんか?」と頼むケアマネジャー。
それに関しても「いいよ。風呂の電気も点いた消えたを見ておくね」と力強い言葉。
春に出会い、夏を越え、秋が過ぎ、次の春を迎えることができないまま、厳しい冬にお婆ちゃんはお爺ちゃんと娘さんのところに旅立った。
一ヵ月前まで、畑で育てた大根を一本一本新聞に包み、家周りの雑草を一本残らず抜いていたお婆ちゃん。
30分座っている事も切なくなって来た時も「また来てな。顔を見るだけで楽になれる」と言ってくれた人。
「自立支援」とは何か。「個別ケア」とは何なのか。
自分らしく生きるとは何なのかを教えてくれた人。
あれから5年。暖かい家で、風は今でも元気にしている。
この子に会う度、「また来てな」と玄関まで送ってくれたお婆ちゃんの笑顔と
最期まで家で、凛として生きて来たお婆ちゃんの、嫋やかで強い人生を思い出す。